菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜

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202.人生の扉は他人が開く

出版社から思いも掛けないメールが私のところに届きました。私が企画・編集に参加して長年刊行が続いている書物での執筆者の件です。長年に渡り、愛用されているQ&Aの本です。時代の変化もあり、改訂して目次も執筆者も変えるということで話が進んでいました。この機会に私は、若い世代に飛躍と勉強の機会を与える意味で教室の若手に執筆を依頼しました。もちろん、本人達には私から直接手紙を出してその旨知らせておきました。

殆ど忘れかけていた時期での出版社からの突然の手紙です。その内容は、「○○先生から返事が来ていないが、書いてくれるということで話を進めていいのかどうか」というものでした。私は、執筆者には既に連絡してある旨の返事を出版社に出していただけに、出版社からすれば当然の疑問を含んだ質問です。この手紙は、私に執っては自分の生き方、或いは教室員に対する今までの教育が無駄であったことを宣告されたような内容でした。振り返ってみると、私が彼に手紙を出したときにも、その人間は私に何の返事も寄せていませんでした。

こちらがいくら意を伝え、礼を尽くしても、それに全く反応しないと、結果的に周りに迷惑を掛けてしまいます。またそういう人は、一事が万事で、何事にもそのような対応を取りがちです。それだけが駄目で、その他の仕事は出来るという人は見たことがありません。郵便物や連絡には礼状や受け取ったことを知らせる手紙を出すことです( No.12「全ての郵便物には礼状を」 )。そして、Quick responseを常に意識して行動することです( No.66「Quick Response」 )。また、上司や同僚を味方にしたければ報告を忘れないことです ( No.99「上司や同僚を味方にしたければ、報告を忘れるな」 )。 さらには、組織外に対する対応は、常に組織を代表しているという自覚を持つことです( No.187「組織外に対する応対は、常に組織を代表としているという自覚を持て」 )。

そのような姿勢や行動が、自分や自分の所属している組織への評価を高め、どれだけ他人を勇気づけ、そして励ますことかについては何度も強調してきたところです。他人に迷惑を掛けないように時間を守ることと同様、打てば響くような対応がその人に対する評価を高めていくのです。人生の扉は他人が開いてくれるのです。若い時は、「努力すれば必ず報われる」、「自分の努力こそが人生の道を拓いてくれる」と思うものです。私もそうでした。しかし、事実は異なります。他人から高い評価を受けるには、先ず他人への感謝の気持ちが先ず先です( No.140「他人への感謝の気持ちなくして自分への感謝の気持ちを求めること勿れ」 )。人は独りでは生きていけないのです。世間では我々は人との関わりのなかでしか生きていけません。自分独りの力で生きていけるというのは錯覚です。

 

 

 

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