菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜」
99.上司や同僚を味方にしたければ、報告を忘れるな
以前にも「報告・復命」の重要性は説きました( No.5 )
。この「報告や復命」が大事な事は、我々の様な仕事にはミスが許されないだけに非常に重要な点ですが、それだけではありません。
先日海外出張の際、私はジャンボジェット機の機長と往復の際に二度程、じっくり話を聞き、彼等の仕事ぶりを見物することが出来ました。その際に強烈に印象づけられたのは「確認・復命」です。機長がチェックをするとそのチェックを副操縦士と機関士が再度声を出してチェックしています。医療に際してのチームアプローチでの「報告・確認」と全く同じです。これはプロとしての業務を遂行する上で欠かせない事なのだと再確認しました。
私がここで問題にしたのはその事ではありません。更に積極的な意味をこの「報告・確認」に持たせたい、或いはもっと積極的な意味を持っているということを分かって欲しいのです。一つの具体的な話をしましょう。学会前には研究発表の仕上げのためにFAXのやりとりを含めて、私のプライベートな時間まで削って深夜までやりとりが続きます。しかし学会の後、「無事に学会が終わりました」或いは「その際の質疑応答はこうでした」と報告に来る人間は決して多くありません。こちらからわざわざ相手に連絡して、学会での様子を聞くことが稀ではありません。私にとっては、報告の重要性を教える事も去る事ながら、論文作成時の参考のために質疑応答の内容を聞いておく事が必要だからです。
しかし考えてみて下さい。研究発表や論文作成は、私の仕事である前に君達自身の問題なのです。ましてや大学人にとっては、研究発表や論文作成を完結させる事は自分が大学人であることの証でもあるのです。私のような立場からすれば、「散々苦労させてその報告がないというのはどういう事だ」或いは「報告こそが一つのAppreciationの形なのではないか」という思いを捨て去る事が出来ません。
一所懸命、指導した研究や論文が無事に終わったら、その後その人間からの「無事に終わりました。有り難うございました」という一言が指導者にとっては唯一の慰めなのです。自分が指導者になった時に分かったのでは既に遅すぎます。そういう事に気を配ってこそ、上司や同僚が味方になり結果的には自分が伸びられるのです。注意してみて下さい。