菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜

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222. 他山の石 ― 時には相手の立場を察して行動する

雨の中、駅から目的地に向かって行く時、谷間(たにあい)に設けられた狭い歩道の舗装は滑りやすく、危うく転ぶところでした。案の定、何人かの人達が転倒していました。
この冬、凍結による転倒で骨折の手術器具の調達が間に合わないという異常事態が全国で起きています。
行政や医療界が、急激な気候変動や超高齢社会の到来に伴う社会のインフラ整備に、充分対処出来ていないのでしょうか。

そんな事を思っているうちに、博物館に着きました。
切符を購入しようとしたら、二つの特別展があり、両方の切符を購入したいと申し出ました。答えは「こちらは○○展です。△△展は門を挟んで反対側にある窓口の一番端で買って下さい」でした。

この対応に少し違和感を覚えました。
私の属している医療界では、患者さんや国民から多くの叱責(しっせき)や非難を受け、今は、窓口はワンストップでの対応が普通です。つまり、医療の受け手側は動かず、医療の提供側が動くという考え方です。
それが、そこでは、顧客を動かして切符を買わせているのです。恐らく、各々の特別展の会計処理のし易さがその理由でしょう。

もう一つの出来事も考えさせられました。
冷たい風雨の中、券売所に屋根はあっても粗末なもので、来館者は、濡れながら外で切符を購入しているという有り様です。勿論、売る側は建物の中です。
私は海外を含め、仕事先で美術館を訪れるようにしています。そんな経験の中では、切符の購入場所が戸外というところをあまり知りません。

第三者の評価や提言によって、あるいは組織内の人間が、一度は相手の視点からモノを考えて、組織や来訪者の受け入れ体制を作るという思想は、もっともダメとされていた医療界でも、今や常識です。

冬の雨降りしきる中、別棟の来館者は、入口に用意されている業務用のボックスタイプの傘立てスタンドに傘を入れるようになっていました。
設置場所は、屋内ではなく、半分は屋根の外に出ているので、傘を入れる際にどうしても雨に濡れてしまいます。しかも、半分程のスタンドは、雨よけのシートがかぶせられていました。鍵は、紛失してしまったのでしょうか、付いていないスタンドも少なくありませんでした。

入場券の売り場のことと言い、この傘立てスタンドの設置の仕方といい、典型的な昔のお役所仕事と思いながら入館しました。
見終わって帰ろうとして再びそこをみたら、前の状態と全く変わっていないのです。来館者が増えているので、傘をスタンドに入れる人がスタンドの前に並んでいる有り様です。スタンドに掛けられていたカバーも外されておらず、使用可能なスペースは前と同じなのです。
普通の医療機関なら、傘立ての設置は勿論、来訪者が多くなっているならシートを外すでしょう。

公的な機関だから許されるのでしょうが、観る側は一時の夢に浸る為、あるいは晴(ハレ)の場に来ているだけに、後味の悪い訪問になってしまいました。
帰ったら、一度、自分の組織を再点検せねばと思いました。

 

(2013.02.27)

 

 

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