菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜

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166.連絡しても、相手が納得していなければ連絡していないことと同じ

度々述べているように、組織の中で仕事をするには、復命・報告が極めて重要です。それは、連携プレーする際の手順に落度がないようにするための手段として重要だからです。最近、研究遂行上、医局員が周囲の指導者から怒りを買って、その後始末に追われる日々が続きました。そこで幾つか気が付いたことがあるので記しておきます。

1つは、E-mailや電話での報告で、全て事足りていると思っている若い人達の認識の甘さです。 NO.15 にも述べたように、どうしても相手に伝えたいことがあるなら、それは出来たらFace to Faceで話をすることです。電話やE-mailで全てが伝わるなら、世の中には集合体としての組織や会合、あるいは会食などなくても、世の中が上手く回転する筈です。しかし、人間には感情があります。また、時には相手の感情を読み取ることも必要です。更には、相手の感情や表情の変化に応じて自分の対応や表現を変える必要もあります。それは、直接に相手と対面していない限り不可能です。

第2番目は、自分で連絡を終えると、それが相手に伝わっていると信じて疑っていないことです。報告をしても、あるいは連絡をしても、相手がその真意を理解してくれていなければ、報告していない、あるいは連絡していないことと全く同じです。憖じ連絡をしているだけに、相互の誤解がその後の対応を更に困難にします。従って、もし充分に相手に自分の真意が伝わっていないと少しでも危惧されたなら、直接会って話すことが大切です。その汗と時間を厭うからトラブルが起きるのです。

他人を相手とする仕事をする上で1番困ることは、相手がどこまで分かっていてどこまで分かっていないのか、あるいはどこまでやってどこまでやっていないのか、それらを自分が把握し、相手に知ってもらうことの重要性を本人が認識していないことです。そのような相互理解が成立していないと、相手は、手伝うべきかどうか、手伝うとしたら何を手伝うのかが分かりません。そのような誤解が続くと、遂には相手に対する不信感が芽生えてしまいます。

第3は、言い訳をすることの愚かさです。これも NO.134 に書いてあります。我々プロは言い訳無用です。結果が全てです。時間がないのは皆同じです。第3者は、どうして出来ないかと同じ位、どうして出来るかの理由を指摘出来るものです。我々プロの世界に生きる人間にとっては、言い訳は決して自分のプラスにはなりません。例えそれが、自分でどう考えても妥当な言い訳だとしてもです。それよりは、自分が出来ないという事実を潔く認めて、相手の指導なり援助を頼むことの方が、余程プロらしい姿です。それが他人の心を動かすのです。

結局、医局員への手紙は、同じことの繰り返しになってしまいます。学習効果は遺伝しないと言いますが、その主たる責任は、私自身が直接そういうことを伝えることの出来た次の世代の人間が、更に次の世代に連絡の重要性と伝達事項が必ずしも的確には伝えることが出来ない危うさを伝えることを怠っているからです。組織の頸さや永続性は、如何に次の世代に“良いもの”を伝えていけるかです。そのためにも、次の世代が前の世代から受け継いだものを形だけ引き継ぐのではなくて、その背景をも併せて伝えれば、若い人は伝えられたことの大切さを理解出来ない筈はありません。

 

 

 

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