菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜」
46.自分の置かれている環境は、他所との比較でしかその真の価値は判らない
自分が恵まれた環境にあるのか、劣悪の環境にあるのか或いは自分は医師としての能力を有している方なのか、そうでないのか、これは他人或いは他の環境との比較をしないと判りません。良いとか悪いとかの問題はあくまでも相対的な問題で、絶対的なものではありません。という事は自分の置かれている環境が良いかどうかの判断には、或いは自分がこの状態で今後何をすべきかを考えるには、全て他所との比較が必要です。
抽象的な話なので、具体例を話してみます。うちでは、現在国内留学2人、海外留学1人を出してます。彼等が留学先に行って始めて気が付く事があります。それは、いかに自分達が恵まれた待遇をされているかという事です。大学の中で、或いはこの医局の中で生活している分にはこの様な状況が当たり前の様な気がします。
しかし、実際のところ、これは例外なのです。あるDr.は研修先の教授から「破格の待遇ですね」と言われたそうです。また別なDr.はそこの上司から「テーマを与えられ、身分を保障され、経済的な裏付けもあり、こんな状態では楽すぎて勉強する気にならないのではないですか」と言われたそうです。この様に自分の環境は、他の環境を考慮しないと、自分の置かれている立場が、周囲に感謝して、勉学に励む状態なのかどうかが判りません。ですから積極的な他所との比較が必要です。
海外留学も同様です。私は当時の教授や助教授から何の身分保障もされませんでしたし、何の保護も受けられませんでした。勿論私の様な人間は奨学生や文部省給費留学生にはなれません。ですから私は身分的、経済的保障は全くない状態で海外へ旅立ちました。では、今のうちの医局の海外留学生はどうでしょう。助手に就き、研究費を保障され、行く先の大学は私とよく知り合いの仲でよく便宜を図ってくれます。
私はそれが悪いと言っているのではありません。そういう環境は極めて希で、極めて恵まれている状態である、だから、自分は恵まれているのだという自覚を持ち、その恵まれた環境に感謝の気持ちを持って研修に励まないと、豊かな人性間、豊かな技術、知識、包容は身に付かない、或いは周りから信頼される医師にはなれないという事を言いたいのです。
どうぞ他所との比較をして下さい。それに因って始めて自分達の医局の良さも悪さも或いは自分の座標軸も判るのです。