「学長からの手紙」番外編 〜 新聞・雑誌への寄稿文から 〜
2015年1月25日発行 月刊誌「臨床整形外科」 第50巻第1号
「臨床整形外科」(臨整外)は、医療系学術専門誌出版社「医学書院」より発行している、整形外科領域の第一線の臨床的知識を紹介する月刊誌です。医学界および関係領域で活躍するエキスパートを編集委員等に迎え、学術専門誌としてのクオリティと正確さを堅持しています。
菊地臣一本学理事長兼学長は編集委員として発行に携わっています。
● 医学書院
http://www.igaku-shoin.co.jp
(「臨床整形外科」 紹介ページ) http://www.igaku-shoin.co.jp/mag/rinseige
● あとがき
気象変動のせいか、あるいは齢(よわい)を重ねたせいか、秋が短く感じられます。
11月の下旬、この原稿を執筆しています。構内は、枯葉の始末に大童(おおわらわ)です。
このところ、気象変動の激しさに負けず劣らず、医療界は制度改革の真っ只中です。
卒前教育の国際標準化、専門医制度の統一、地域包括ケアの実施、国民健康保険の都道府県単位での運営、医療標準化に向けてのデータベースの構築と利用と、頭に浮かぶだけでもこれだけあります。
このような激動の今、運動器のプロである整形外科は、これら変革の波にどう対応しようとしているのでしょうか。内科に総合診療の専門医が創設されると、彼らとわれわれは、どう関わっていくのでしょうか。
健康指標改善の担い手の一員として、われわれにその力があると、国民や行政は認めてくれるのでしょうか。
整形外科の第一線では、多くの高齢者を診療しています。
Cureの思想だけで上手く対応できるでしょうか。否(いな)です。残念ながら、現在の医療教育には、careの思想が十分取り入れられているとは言い難(がた)いのが現状です。
世の中は、少子高齢化に伴う社会保障の負担を軽減することを目的の1つとして、在宅医療を含めた、生活を基盤とした、健康−医療−介護が一体となった体制整備が急ピッチで進められています。
われわれ整形外科医は、この制度のなかでこの激流にどう関わり、国民の信頼を勝ち得ていくのでしょうか。
運動器の健康が、寿命や認知症などに深く関わっていることは、近年の科学が明らかにした事実です。
そのような事実は、国民の健康に整形外科医の果たす役割が、従来、認識していた以上に大きいことを示しています。われわれの有している知識や技術、そしてknow-howが、いかに国民の健康保持に大切かを、早急に整形外科医自身がエビデンスを構築することによって知ってもらうことが、今、求められています。
エビデンスの構築、知ってもらう努力、これらは今まで不得手としてきた分野です。
ただ、時間は待ってくれません。
整形外科医が総力を挙げて、長寿社会における人間(ヒト)の健康保持の担い手として立ち上がる時です。本誌の使命のひとつは、ここにあると信じています。
( ※ Webページ向けに読点や改行位置を編集し、転載しております)