「学長からの手紙」番外編 〜 新聞・雑誌への寄稿文から 〜
2014年5月25日発行 月刊誌「臨床整形外科」 第49巻第5号
「臨床整形外科」(臨整外)は、医療系学術専門誌出版社「医学書院」より発行している、整形外科領域の第一線の臨床的知識を紹介する月刊誌です。医学界および関係領域で活躍するエキスパートを編集委員等に迎え、学術専門誌としてのクオリティと正確さを堅持しています。
菊地臣一本学理事長兼学長は編集委員として発行に携わっています。
● 医学書院
http://www.igaku-shoin.co.jp
(「臨床整形外科」 紹介ページ) http://www.igaku-shoin.co.jp/mag/rinseige
● あとがき
東日本大震災から3年を過ぎた月末の早朝、この原稿の筆を執っています。
本県は、誰も経験していない人口密集地での原発事故に見舞われました。
未曾有の混乱のなか、人々は死生観を問われました。如何(いか)に生きるか、です。
人生を終える時、心の裡(うち)に問い掛けなければなりません。「あの時、自分は逃げずに、ぶれずに、踏みとどまったのか」と。
われわれ医療人は、死生観と同時に、自らの医療人としての器量も試されました。知識の有無、知識としてあっても実践できたか、医療人として身の処し方に忸怩(じくじ)たるものはなかったか、などです。
私はと言われれば、医療人のcareの思想の欠如を感じました。Cureの教育しか受けていないながらも、自分の専門領域の関係でcareの重要性だけは認識していました。
突然の超高齢社会の出現、避難生活、心の不安定を目の前にして、知識としては十分認識していた事が、現実のこととして突きつけられました。痛みと寿命、動かないことの健康への深刻な影響、そして心の安定が生きていくうえでは必須であること、などです。
今後、われわれは、「とことん医療(cure)」と同時に、「ほどほど医療(care)」の勉強も必要です。
そういう視点から、わが国の整形外科医の役割をみると、いろいろなことがみえてきます。
1つは、運動器のプロとしての錬磨です。
幸い、わが国の整形外科医の、痛みに対する診療レベルは極めて高い水準にあります。これをさらに幅を拡げて、「人間の健康を護(まも)るのは運動器のプロである整形外科医の役割」と自覚して、患者の質問に的確に答え、指導できるように、より一層勉強する必要があります。
もう1つは、careの思想の導入です。
高齢者の診療ではcureだけでは患者の納得できる医療は提供できません。政府の医療政策は、既に大きくそちらに舵を切っています。
最後に、evidenceの集積です。
これは超高齢社会を先頭で走っている我が国の整形外科医の責務です。本号は、今月から2つの連載を開始しました。目的は、整形外科医による質の高い情報提供に資するためです。
「視座」(註:冊子内コーナー)の結びにあるように、「流石、整形外科だ」と、医療従事者や国民から言われるためにも、これらの3つの提言の実行は、わが国の整形外科の明日を明るいものにしてくれるはずです。
( ※ Webページ向けに読点や改行位置を編集し、転載しております)