菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜」
215. 自分の仕事の流儀は最後まで貫く
先頃、香港大学整形外科創立50周年記念式典に招待され、一週間滞在しました。
講演を3つ、病棟廻診、リサーチカンファレンス、記念式典、夜の会食と、久し振りに整形外科医としての仕事だけに専念した一週間でした。
その時、私は改めて、プロとして、それぞれの人間が持つ人生観、或いは仕事観は最後まで一貫して頑張れば、何時かそのことが周囲からの評価に繋がるということを確信しました。
私は英語は駄目で、そのこともあって、以前から学会で自分の思う所を声高に主張することはなく、只、黙々と論文などで自分の考えを提示し続けてきました。その結果、いつの間にか国内外の学会で、指導的な立場や役割を果たすようになっていました。しかし、英語が苦手な為、学会でのみの付き合いが多く、また、学会で積極的に発言しないことに変化はありませんでした。
今回、香港大学で研修した先生方が世界中から集まり、そこで私が紹介されると、多くの方が滞在中接触を求め、「名前と顔が初めて一致した」と言われました。多くの講演や訪問教授の依頼がありましたが、原発事故の対応を理由に丁寧にお断りしてきました。
私自身、自分を慕って付いてきてくれる弟子や仲間に絶えず説いていることは「愚直なる継続」です。そのことが間違っていないことを再確認できました。
自分の出来る全てを全力でやり続けること、それが結果的にもう一つの哲学である「何になったかではなく、何をしたか」に至るのだと思いました。
只、「地位や年齢と共に求められる役割は変わる」(196) のも事実です。
自分の医師としての仕事だけに集中できる期間は、今から考えると驚く程短いものでした。今回の旅で、自分の全ての時間とエネルギーを一つのことに集中できるという豊潤な時は過ぎてしまったという思いも、同時に認めざるを得ませんでした。
人生はやり直すことなどできません。それだけに、自分で後々後悔することのないように、若い人は、一つの目標を定めてそれに向かって、黙々と努力をし続け、得られた結果を提示して続けることの大切さを知って欲しいと思います。そんなことを教えられた一週間の香港滞在でした。
(2011.10.06)