菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜」
198.自分の世界を自分から狭くするな
最近の傾向として、昔、私が医局に入った頃と比べると、皆で医局旅行に行ったり、何か催し物をしたりというのが少なくなりました。このような会を企画しても参加者が少なくて、幹事が気の毒になります。これは、医局に限らず、日本の世情一般に言えることです。豊かさと引き替えに失ったものの一つがこの連帯とか一体感でしょう。
私自身も、年齢と共にそういう行事に参加することが余程、自分の心に鞭を打たないと、参加することが億劫になってきました。しかし、今の若い人が若いうちからそのようなことでは将来の彼等の身辺や生き様が心配です。医師を初め、プロフェッショナルな職業に属する人は、良くも悪くもブラックボックスを持っていることがその特徴です。それがプロフェッショナルな職業の共通項です。即ち、他人が伺い知れない思考過程の存在です。
しかし、それは、一歩間違えると極めて閉鎖的な集団になることをも意味しています。プロフェッショナルな職業に就いた以上は、若いときから意識的に、そして大いに他の職業や同じ医療界でも他の職種の人達と積極的に交わることが必要です。そしてそのような機会があるときは積極的に参加することです。そのことは、自分の思考をその職業にありがちな硬直的なものになるのを防ぎ、柔軟な考え方を可能にしてくれます。また、他の職種の人と同じ視点を持つことにも繋がります。また、それによって人の輪が広がり、その人の輪がいつか自分が苦況に立ったときに大いに役に立つことがあるし、また助けてくれる人が現れる筈です。他の領域の人と接触することによって、自分が知らず知らず柔軟な考え方を持って、時代の変化の先頭に立つことが出来るのだと思います。
そうしないと、世の中の大きな変化が起きていても全く気が付かず、変化に突然直面して問題対応型で問題解決にあたらなければなりません。例えて言うと、「風を待っている軒下の風鈴」です。道を拓くのは常に問題設定型の思考です。その為には、自分に余裕と柔軟性を持っていることが必要です。時代の変化に対応するだけでは生き抜いていけません。発想の転換をして時代の変化を先取りするのは、普段から自分を狭くしておかないことです。