菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜」
150.転勤の時期に思う事
今年もまた、出会いと別れの季節が来ました。毎年、この時期に問題になるのは医師の移動に伴う書類の手続上のトラブルです。今回も幾つかトラブルが起きました。その様なトラブルを防ぐ為にも自分の書類は自分で書くべきです。この様な事は他職種では当り前の事で、特に取り立てて言う程の事でもありません。しかし、私がここで言いたい問題は別の所にあります。大学の医師は雑用を含め、非常に忙しい事は衆知の事実です。しかし、だからと言って社会や組織の一員として所定の手続きを取らなくて良いという事にはなりません。その忙しさをカバーする為に医局は多くの秘書を雇っており、その秘書達によって書類の作成や手続きの代行が滞り無く行われております。
問題は、その様な状態に於いて医師が求められるべき事が一つ有ります。それは、どんな書類上の手続きが必要か、そしてその書類の手続きにどのくらいコストや時間が掛かっているかという事を医師は認識すべきです。そうしないと、他人の大変さや苦しみを察する事が出来なくなってしまいます。医師が自分でやっていれば、何のトラブルも無くスムーズに済む手続きが、秘書がやっている為に本人でなければ分からない事の問い合わせでトラブルが持ち上がったり、秘書ということで、相手方の事務の方が非常に横柄な態度に出る事も稀ではありません。そういう事を無くす事は、残念ながら現実には出来ません。
しかし、大変な仕事を秘書が肩代わりしてやっているという事に思い至れば、自ずと秘書に感謝の言葉の一つも出るでしょう。また、書類作成の手続きに伴って秘書がどの位時間と労力を強いられているかを知る事により、事務上の手続きへの理解や事務をしている方への思いやりが出てきます。こういう一連の理解と感謝は、結果的には自分の医師としての業務をやり易くなる事に繋がるのです。最低限自分で出来るものは自分でやる。しかし、出来ないものや、代行してもらう事に関しての理解や感謝を怠るべきではありません。その仕事の大変さが分からないと、当然、その仕事をやっている人に対する理解度も落ちます。それが結果的には無関心さに繋がり、相互不信になっていきます。お互い心すべき事だと思います。