菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜」
142.自分の常識、他人の常識のチェックが必要
論文を読んだり、本を書いたり、講演をしたりしていると、時々、正しいかどうかは別にして、自分の知識が意外と一般的ではないことに気が付くことがあります。その時はやはりすぐに調べ直し、自分の知っていることが少なくとも現時点では正しくて、単に他人がその事実を知らなかっただけかどうかを検証します。しかし時には自分が知らないことが一般的には常識になっていることが少くありません。朝のプレゼンテーションで、若い人から時々そういう指摘を受けて、時の流れに取り残されていたことを知り落ち込むことも稀ではありません。日々の医学の進歩についていくことがなかなか辛い年齢になってきたようです。
同じようなことは論文を書く時にも言えます。論文を書く時には、論文の中での論理の進め方に整合性があるかどうか、或いは論理の飛躍はないか、もっと大事なことは、自分の知っていることは他人も知っているという思い込みはないか、ということのチェックが必要です。それが無いと、例え結論が正しくても他人には論理の飛躍と映り、或いは論理の整合性が無いとされてしまいます。
自分の知識が常識で、他人がただ知らないだけなのか、或いはその逆なのか、なおかつ、それらの事実は時代の変化に伴って、ある時代には正しいとされたことが今ではやってはならない、ということも少くないようです。それだけに、日々自分の知識のリフレッシュが必要な、大変辛い時代の中に我々は生きているようです。お互いに他人との会話を多くし、自分の知っていることが正しいのか、或いは自分の知らないことが無知なのか、再評価する必要がありそうです。