菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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50.出来る人間程、仕事の時と仕事をしていない時の表情が違う

ここでお話しするテーマは、私にとっても最も不足している或いは出来ない事なので、本来は私には話をする資格はないのです。しかし、私が出来ないからと言って、医師としてのマナーからこれを外す訳にはいきません。これを50番目のタイトルとして選んだ理由は今回の台湾の国際脊椎外科カンファランスの時のエピソードにあります。

それは、台湾大学整形外科教授で台湾における脊椎外科の中心人物であるProfessor Chenとの2週間に亘る滞在中の付き合いから感じた事です。彼は、この学会が行われる直前にもSino−Japanese Symposium on Orthopaedic Surgeryの事務局も担当していました。私はその会にも招待されていた為に都合2週間、彼と付き合う事になったわけです。その時彼は本当に顔付きが状況により変わるのです。

仕事の時のきびしい顔付きと仕事が終りOff Timeの時の和やかな表情、またその豊富な話題、その話題は文化、経済、歴史、政治に亘っていました。この2つの違った状況での彼の表情が私が見ていても非常に違うのです。台湾滞在の前半を私に同伴した家人も、仕事の時と仕事を離れた時の彼の表情があまりに違う事に驚いていました。それを食事の時に彼に言うと、彼は「脊椎外科医は仕事の時は非常にTensionが高くなっている。そのStressを仕事が終ったら除かなければならない。だからTensionとRelaxとを旨く使いこなせる様にならなくては体と精神がもたない」と言っていました。

確かにその通りで、度々このシリーズでも指摘している様に、医師は白衣を着ている時には、患者さんに信頼される為に神の様に振る舞わなくてはなりません。その反作用として、私的な時にはそのStressを翌日に残さない様に充分に発散させなくてはなりません。

私にとってこれは全く不可能な事で、現在私が最も苦手としている事です。それは、周りの人も認めると思います。でも、その切り替えを旨くしないと、結局は自分の心身をずたずたにしてしまいます。若い医局員も今からそういう訓練をした方が良いのではないでしょうか。仕事の時と私的な時の切り替えを服装、或いは化粧、或いは何らかのきっかけを自分なりのKeyを作って切り替えを旨くする事が一つです。私自身は、着物というものをKey Wordにして、自宅に帰って着物に着替えたら仕事上の嫌な事を忘れる様にしています。

しかしなかなか旨くはいきません。でも今の若い医局員は男性であれ、女性であれ、非常に良い意味で遊び上手で、会話や食事や宴会を上手に楽しむ術を心得ている様です。それを是非洗練させて、日常業務のTensionからその日の内に解放される様に心掛けてみて下さい。息の長いDr.になる為には或いは長期間に亘って活力を維持する為には、この事が一番重要な気がします。



 

 

 

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