菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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32.細かい心配りを

人は仕事をしていく上で様々な人との付き合いが必要とされます。それは自分が好むと好まざるとに拘らず、人との係わり合いなしではと仕事がしていけない為です。そういう時に細かい心配りがその人の評価を高めますし、細かい心配りが出来る人が周囲からの信頼を勝ち得ていくわけです。また、そういう心配りが出来ない人は心配りが出来ないだけで、その他の能力は充分にある。或るいはただこの心配りが出来なかっただけだ、といった人は今までお目にかかった事がありません。細かい心配りが出来る、すなわち仕事をしていく上での目配りがきちんと出来る人はその他についても目配りが出来ているという事です。ですから、常に心配りが出来る様に自分を訓練する事が必要です。

具体例を挙げてみます。私は今年の冬、木曜日朝の第1カンファランスルームでの術前カンファランスにおいて、スタッフに「部屋が余りにも寒いので医局から病棟に上がる時に暖房のスイッチを入れてから病棟へ上がれば良いのではないか」と提案しました。しかし、その提案は2、3度行われましたが結局、誰も暖房のスイッチを入れて病棟回診に上がる人は一人もいませんでした。そこで私は木曜日は救急玄関から入って、まっすぐ教授室に入る前に寄り道をして、第1カンファランスルームの暖房スイッチと部屋の照明スイッチを入れてから来る様にしました。

ある時SGTの学生が「おっ、部屋が暖かい」と言いました。私はその時色々考えました。「部屋が勝手に暖かくなるか」と言いたい気もしました。また、「誰かがスイッチを入れなければ暖房のスイッチは一人では動かない」という事を教えようかとも思いました。しかし「おっ、部屋が暖かい」としか言えない学生に、私が考えた様な台詞を言っても心には届かないと思って止めにしました。ただし、医局員は別です。この冬間も無く終わろうとしており、もう早春です。しかし、今年の冬結局一度も第1カンファランスルームの暖房スイッチを入れた人間はいませんでした。極論すれば、そういう事が出来た時私の医局、或いは私の部下が私と同等、或いは私を追い抜いたという事が言えるでしょう。ただし、現時点ではまだそういう事はないようです。

もう一つ具体例を話しましょう。以前から度々私が医局のスタッフや秘書の方々に注意をしていた事ですが、FAXの用紙が送られてくる用紙と不釣合な程大きい用紙が時々出て来ていました。何度か注意をしたのですが直りませんでした。そこで、医局の秘書に指示してチェックをさせました。その結果、センサーが壊れていて自動選択装置が働かなかったとのことでした。早速私はその交換を指示しました。しかし、その交換の指示もなかなか実行されませんでした。

欲を言えば、私が催促する前に度々医局のスタッフや秘書の方々に会社へ催促して欲しかった。そういう心配りをして欲しかったと思います。更に最近、再びFAX用紙の送られてくる用紙とコピーされる用紙のアンバランスが目につきました。そこで私はおかしいと考えて秘書に言いました。「おかしいのではないか、また壊れているのではないか」これに対して、答えは「紙がありませんでした」でした。この事もFAXを受けとっている医局員やFAXを受けとっている医局秘書達が見ればすぐ判る事です。何故気が付かないのでしょう。或いは何故気が付こうとしないのでしょう。不可解な事です。

考えてもみて下さい。こういう部屋を暖めておこう、或いはFAX用紙への心配りだけが出来なくて、その他の心配りや仕事は出来るという例があるでしょうか。決してありません。やはり一つ一つ物事をきちんと処理していくには、それなりの心配りが必要です。そういう心配りを持つと、全ての仕事が一段とレベルアップします。絶えず自分のアラームサインを低く設定しておく事です。それが全ての仕事が旨くいき、結果 的に自分に対する他人の信頼感が増します。お互い心しましょう。

 

 

 

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