菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜」
2.たった1つの小さなミスが一生の命取りになる
自分としては取るに足りない、或いは些細な事が自分の一生を左右する事があります。人間は相手を評価する場合に、その人の全人格を知っている訳ではないので、その手掛かりとなる挙手動作で判断します。小さな事で全人格が評価される訳です。考えてみれば、極めて恐ろしい事で、自分自身に当てはめてみればこんな理不尽な事もありません。しかし、これが現実です。充分に注意して行動すべきです。
具体的には、時間を守る事。約束を守る事。服装を正す事。仕事は必ず終了後に復命する事です。これらの事は目的ではなく、相手の評価を誤らせない為の手段です。具体的に述べますと、時間が一度でも遅れた人に対しては、たまたま遅れても相手にとっては時間がルーズな人間にろくな人間は居ないと判断され、実際は時間にルーズでなく、全人格的には素晴らしい能力、魅力を持ってる人間であっても、これだけで評価される訳です。心しなければなりません。
次に約束です。出来ない約束はしない事です。一旦約束したら、どんな事をしてもその約束を守る事です。途中で状態が変化したら、その都度相手の了承を取る事です。そうする事によって相手に自分の誠意が認められます。服装についても同様です。医師としての仕事は医療です。即ち、医療こそが最もフォーマルな行為な訳です。結婚式の出席や面接試験の時にはネクタイと靴を履いてこない人は居ません。
考えてみれば、医師にとって医療行為はそれ以上にフォーマルな筈です。ですから、自分で最も正装だと思われる服装をして医療行為を行う事が相手に対する誠意です。学生にいつでも言う様に私の留学時代、ベルギー王室からの紹介のドクターが、朝の回診時その場で解雇されました。その理由はジーンズを履いて来たからです。ジーンズはカジュアルです。医療はフォーマルです。だから、その服装に私の上司は医療行為に参加する事を許しませんでした。やはり我々も考えるべきです。服装はお洒落をする事ではありません。髪を洗い、常に整髪し、上着や白衣にフケが無い様に、新しい洗いざらしの白衣を着て、靴を履いて、行動する事が医師にとっての正装です。
最後に復命ですが、一般に極めておろそかになる事です。相手にものを依頼した場合、その相手は決して忘れていません。その事を相手の立場で考え、或いは自分が相手にものを依頼した時にどんな気持ちでいるかを考えれば、その事は自明の理です。これは、どんな組織でも厳守される事です。公務員の場合は必ず復命書にサインしなければなりません。
具体的には、ものを依頼されたらば、その依頼を受けて何かを行動した場合に、その結果を相手に教えてあげる事です。紹介状に対して返事を書く事も、この事に属します。口頭で頼まれたら、或いはメモで頼まれたら、それに対して必ず答えるのが相手に対する誠意です。又、相手に何かをしていただいたら、それに対して一言お礼を言えば、それだけでその人の評価は深まります。
自分で何気なく行なった、たった一つの小さなミスが自分の一生の間に大きなハンデイとなる事がある事を忘れないで行動すべきです。