HOME > 大学紹介 > 学長からの手紙TOP > 番外編 目次 > 「臨床整形外科」あとがき

「学長からの手紙」番外編 〜 新聞・雑誌への寄稿文から 〜

<< 前のページ  番外編 目次  次のページ >>

2012年3月25日発行 月刊誌「臨床整形外科」 第47巻第3号

「臨床整形外科」(臨整外)は、医療系学術専門誌出版社「医学書院」より発行している、整形外科領域の第一線の臨床的知識を紹介する月刊誌です。医学界および関係領域で活躍するエキスパートを編集委員等に迎え、学術専門誌としてのクオリティと正確さを堅持しています。
菊地臣一本学理事長兼学長は、編集委員を経て、現在は編集主幹として発行に携わっています。

医学書院  http://www.igaku-shoin.co.jp
   (
「臨床整形外科」 紹介ページ) http://www.igaku-shoin.co.jp/mag/rinseige

あとがき

この原稿を書いている今は2月中旬、“春は名のみの風の寒さや”、早春賦そのものの時季です。
あれから1年、終わりのない闇の中を走ってきたようでもあり、息つく暇もなかったようでもあります。
読者にはどんな1年だったのでしょうか。

私には、掛け値なしの「身を削った1年」でした。想像を絶した混乱の中で、「逃れられぬ客なら笑って迎えよ」という気持ちで過ごした歳月でもありました。自らに課した目標を果たして、心満ちて燃え尽きた時、体調を崩してしまいました。ただ、学ぶことの多い1年でもありました。
国民の多くが、忘れられない何かを失い、そして何かを得た時だったのではないでしょうか。

「次の世代に伝える事を記録せよ」と関係者に言ってきた立場から、自分自身も何か残しておかなければなりません。
教訓の一つは、わが国には複合災害に対する備えが全くなかったことです。況(いわ)んや、原発事故は誰にとっても想定外の出来事だったようです。事故が起きてからの、「だから…」といった類(たぐい)の様々な言説を私は信用しません。
二つめは、作業の効率化を求めるあまり、どの部署にも余力が全くなくなっていたことです。自衛隊、警察、救急、行政、そして病院も例外ではありませんでした。これらのことは、政府の然(しか)るべき人々が考えてくれているはずでしたが、実態はそうではありませんでした。
われわれ一人ひとりが真剣に考えて、将来に備えて負担を分かち合う時です。

本誌は3月号、3月は別れと旅立ちの季節です。
この大惨事をどう咀嚼して受け入れ、どのような形で今後の人生に生かすか、一人ひとりが問われています。想像すらできなかった惨禍に直面した時、人は全人格を掛けた自分の生き方を問われます。今回もそうでした。私自身は、踏み止まり、ぶれずに、そしてそこで立ち続けることの大切さと困難さを学びました。

       “被曝しつつ放水をせし自衛官  その名はしらず記憶にとどめよ” (長谷川  櫂)

この歌を読む時、当時の感覚が体内に今でもにわかに蘇ってきます。

最後に、今回の震災での現場の人々の勇気、忍耐、覚悟の働き振りをみて、子供も含めてわが国の人々の雄々しさに、志の大切さを教えてもらいました。

本誌の特集は、「大震災と整形外科医」です。
読者は、自分自身の経験や人生観と照らし合わせて読んで下さい。そして、一時、その先にあるわが国の整形外科の、そして学会組織のあるべき姿へ思索を広げて戴けると、この企画は成功です。

 

 

 

 

( ※ Webページ向けに読点や改行位置を編集し、転載しております)

▲TOPへ