菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜

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176.「知らない」のなかにある天と地の差

我々は、仕事をしていくうえで、すべての局面でチームアプローチを行っています。また、確認という手段が頻繁に行われています。その時、言葉の持っている深い意味を時々考えさせられます。「知っている」という言葉自体は、字面だけをみると、一見単純です。しかし、良く考えると、自分が問い質されたことに関する一点のみ知っている、という意味で使っていることが、多い様な気がします。

逆に言うと、問い掛ける側が期待している程の「知っている」ではないのです。一方、「知らない」という言葉にも、知っている以上の深い意味がある様に思います。「知らない」と言った場合に、全く知らないのか、或いは何を知っていて、何を知らないのかを良く認識していて、知らないことの大きさや多さを知っているが故に「知らない」と答えている場合もあります。つまり、知らない程度に大きな差があります。

往々にして「知らない」と答えた人の方が、「知っている」と答えている人よりも、より深く洞察している場合が多いことは確かです。物事の本質を知れば知る程、或いはその道の達人になればある程、その物事との周囲との関わりをも含めて把握することの大切さが身に染みて分かる様になります。つまり、「知らない」という言葉の重みを知る様になるのだと思います。従って、問い掛ける側は、むしろ「知らない」と言う人の言葉の中身に注意する必要があります。「知らない」と答えている人の方が、良くその内容を知っていることが多いという場合もあるので、その人の話の内容を詳細に聞き出す価値があるかも知れません。

確認作業をする時の「知っている」、「知らない」という言葉の裏には、答の裏に秘められた大きさを思い測る能力も、問い手側には求められるのだと思います。つまり、相手は問い手側の大きさより大きくは応えてくれないということだと思います。

 

 

 

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